森会長失言問題をオリンピック不開催の原因にしようとする日本的な生贄の風習
連鎖反応で騒ぎが大きくなっていく中で、森氏が表向きは失言問題で、実質的には、オリンピック開催が絶望的になったことの“責任”を引き受けて、辞めてくれれば、“悪い権力者の成敗”によるカタルシス効果が得られ、“オリンピック中止に対する怒りのはけ口”も見つかるので、一石二鳥である。小池知事の場合は、この二つの理由に加えて、(元々自分が属する派閥のボスだった)森氏の首に鈴をつけることで政治力を見せつけるとか、(本当は森氏に引っ込んでおいてもらいたいが、怖くて口にできない)政府・与党に貸しを作る、といったかなり政治的な思惑もあったかもしれない。
実際、騒ぎが大きくなって森氏は辞任に追い込まれたが、森氏にまつわる「老害」「密室政治」と「ジェンダー問題」がクローズアップされたせいで、森氏に後を託されたとされる(森氏より年長の)川淵氏や、過去に男性選手へのセクハラを指摘された橋本大臣は、後任として瞬間的に本命視された後、すぐに消えていった。そもそも本当にこれらの人が後任になるという話が進んでいたのかどうかさえ定かでないが、彼らのことを森氏と違って、本当の一流スポーツ選手出身で、現役アスリートたちから信頼されているとして持ち上げておきながら、本命視され始めると、最初から分かり切っていた、彼らの“問題点”を今更のように取り上げる、マスコミの報道姿勢は(いつも以上に)どうかしている。
十六日になって、オリンピック・メダリストでJOCや組織委員会で仕事をしている人たちが、“クリーンな候補”として新たに浮上した後、十七日午後の候補者検討者委員会は橋本大臣を候補にすることで一本化したと報道されたが、本人がはっきりと態度を表明していないので、私がこの文章を書いている十七日午後九時現在、どうなるかまだ分からない。彼らの誰が後任になるにしても、コロナ禍の完全終息が見込めない状態でのオリンピック開催に向けて、様々な方面との政治的交渉を従来以上に強力に進められるのか、最悪でももう一年延期する合意を形成することができるのか、全く予測不可能であり、その一番肝心な点についてマスコミはあまり触れようとしない。あまり高い期待の下に選出されると、森氏に背負ってもらうはずだった、“オリンピック不開催の責任”の重荷を改めて背負されたうえ、日本のスポーツ行政の不透明さに起因する、更なる重荷を背負わされることになりかねない。
“いかにも日本的な政治”の象徴である“森さん”を責める人たちもかなり“日本的”に振る舞っているせいで、混沌とした状況が続いている。